立退料って「いくら払えばいいの?」で止まっていませんか?
立退き交渉を検討するオーナーの多くが抱える疑問のひとつに、
**「借家権」と「営業補償」って何が違うの?**というものがあります。
「立退料は払うとしても、それって全部まとめて“立退料”でいいんじゃないの?」
そう思っていませんか?
実はこの2つ、まったく異なる性質と算定根拠を持つ補償なのです。
違いを理解しておくことは、適切で公正な立退き対応の第一歩となります。
💡借家権とは?
🔷借家人の「居住し続ける権利」
借家権とは、借家人が物件に継続的に住み続ける法的権利です。
民法や借地借家法により、借家人は一定の保護を受けています。
この「借家権」があるために、オーナーは一方的に契約を解除したり、退去を命じることはできません。
その結果、借家人が保有するこの権利に「経済的価値」が生じるという考え方が生まれます。
🧮 借家権価格 = 借家権割合 × 更地価格
たとえば、更地価格が3,000万円で借家権割合が30%とされる地域なら、借家権価格は900万円となり、この金額が立退料のベースとなり得ます。
💡営業補償とは?
🔷借家人の「事業機会の喪失に対する補償」
一方、営業補償は、店舗や事業者などが営業を中断・廃止せざるを得なくなった場合の損失に対する補償です。
これには以下のような内容が含まれます:
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移転に伴う設備・什器の撤去・再設置費用
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一時的な売上減少に対する補填
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常連客・信用・商圏の喪失
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移転にかかる広告・告知費用など
これらの補償額は、過去の営業実績や事業規模に基づいて個別に積算されます。
🧮 営業補償額 = 年間売上 × 営業補償率(または月商×補償月数)+実費費用
たとえば、月商100万円の店舗で、営業補償が6か月相当と見なされれば、補償額は600万円程度になります。
🔍借家権と営業補償の違い:ポイント比較表
項目 | 借家権 | 営業補償 |
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主な対象 | 住居・事業用問わず | 主に事業用(店舗・オフィスなど) |
性質 | 居住(使用)継続の法的権利 | 営業機会の喪失に対する損失補填 |
評価の根拠 | 不動産価格・借家権割合 | 営業実績・売上・経費等の収益実態 |
必要資料 | 土地・建物の評価資料、契約書など | 決算書、確定申告書、帳簿、営業許可証など |
支払義務の有無 | 実質的に支払が求められるケースが多い | 営業事実が確認できれば必要 |
✅解決策:立退料は内訳ごとに整理して提示を
オーナーが立退料を提示する際には、「一括で○○万円」ではなく、内訳を明確にすることが交渉の鍵です。
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借家権部分:○○万円(不動産鑑定による評価額)
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営業補償部分:○○万円(帳簿に基づく補償算定)
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その他(移転費用など):○○万円
このように明示すれば、テナント側も納得しやすく、不透明な交渉から脱却できます。
また、いざというときに訴訟等でも根拠を説明しやすくなります。
🧭立退料は「金額」よりも「根拠」が重要
借家人の立退き交渉において、「いくら払うか」よりも「なぜその金額なのか」が重要です。
その根拠を明確にするためには、借家権評価と営業補償の違いを正しく理解することが欠かせません。