📘 不動産鑑定評価上の視点
不動産鑑定士が評価を行う際は、
市場実勢(販売事例・階層別価格差)を反映して評価額を求めるため、
行政の税評価とは異なり、高層階の付加価値を的確に反映します。
特に以下の業務でこの分析が活用されます:
- 相続税評価と実勢価格の乖離を説明する意見書
- タワーマンションの賃料・売買価格評価
- 課税不服申立における鑑定意見提出
改正前後の税負担比較シミュレーション
ここでは、タワーマンションの高層階と低層階における「改正前後の税負担比較」を、わかりやすい数値モデルでシミュレーションします。
🏢 想定条件
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項目 |
内容 |
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物件 |
40階建タワーマンション(東京都心) |
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住戸面積 |
各戸 70㎡ |
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実勢価格 |
下表参照 |
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固定資産税評価割合(改正前) |
一律 5,000万円(階層差なし) |
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階層補正(改正後) |
高層階+20%、中層階±0%、低層階−10% |
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固定資産税率 |
1.4%(標準税率) |
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都市計画税率 |
0.3% |
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合計税率 |
1.7%(年間課税率) |
💴 1. 市場価格(実勢)
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階層 |
市場価格(㎡単価) |
住戸価格(70㎡) |
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5階 |
120万円/㎡ |
8,400万円 |
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20階 |
150万円/㎡ |
1億500万円 |
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35階 |
180万円/㎡ |
1億2,600万円 |
🧾 2. 改正前後の課税評価額
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階層 |
改正前評価額 |
改正後評価額 |
補正率 |
評価額変動 |
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5階 |
5,000万円 |
4,500万円 |
−10% |
−500万円 |
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20階 |
5,000万円 |
5,000万円 |
±0% |
±0万円 |
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35階 |
5,000万円 |
6,000万円 |
+20% |
+1,000万円 |
💰 3. 年間固定資産税+都市計画税額の比較
(課税評価額 × 1.7%)
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階層 |
改正前税額 |
改正後税額 |
増減額 |
増減率 |
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5階 |
85,000円 |
76,500円 |
−8,500円 |
−10% |
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20階 |
85,000円 |
85,000円 |
±0円 |
±0% |
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35階 |
85,000円 |
102,000円 |
+17,000円 |
+20% |
→ 改正後は高層階の税負担が約2割増、低層階は約1割減になります。
⚖️ 4. 相続税評価額ベースで見た影響(目安)
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階層 |
実勢価格 |
改正前評価額 |
改正後評価額 |
実勢比(前→後) |
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5階 |
8,400万円 |
5,000万円 |
4,500万円 |
60% → 54% |
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35階 |
1億2,600万円 |
5,000万円 |
6,000万円 |
40% → 48% |
→ 高層階の「実勢との乖離」が縮小し、節税効果が減少。
一方、低層階は評価が下がることで相続税額も減少。
📊 5. 税負担比較イメージ
年間税額(円)
│
│ 35階 ────● 改正後:約10.2万円
│ ● 改正前:約8.5万円
│
│ 20階 ────● 改正前後とも約8.5万円
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│ 5階 ────● 改正後:約7.6万円
│ ● 改正前:約8.5万円
│
└────────────────▶ 階層
5F 20F 35F
→ 改正により、税負担が市場実勢の分布に近づくよう調整されているのがわかります。
🧮 6. シミュレーションまとめ
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階層 |
改正前税負担 |
改正後税負担 |
差額 |
改正目的との整合性 |
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5階 |
税過重気味 |
やや減少 |
−8,500円 |
適正化 |
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20階 |
中立 |
変化なし |
±0円 |
適正 |
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35階 |
税過少(減税状態) |
税増加 |
+17,000円 |
是正方向 |
💡 不動産鑑定評価との関係ポイント
- 鑑定評価では実勢価格(階層差含む)を重視するため、すでに「高層階=高価」という現実を反映済み。
- 改正後の税評価が鑑定評価に近づく方向ではあるものの、依然として市場との乖離は残る。
- 相続・贈与・課税不服などの案件では、鑑定評価により「課税額の妥当性」を検証できる。