「タワーマンション節税(タワマン節税)」は、不動産鑑定評価とも関わりが深いテーマで、特に固定資産税や相続税の評価の公平性の観点から注目されています。以下でわかりやすく整理します。
🏢 タワーマンション節税とは
「タワーマンション節税」とは正式な制度名ではなく、
高層階のタワーマンションの固定資産税や相続税評価額が、実際の市場価格よりも低く算定されやすい現象を指す通称です。
🔹 背景と仕組み
- 固定資産税・相続税評価の基準
- 固定資産税評価は、建物全体の再建築価格を基礎にし、延床面積で按分して各住戸に割り当てます。
- 相続税評価も、土地部分は共有持分に応じて按分し、建物は床面積比で評価します。
→ つまり、高層階でも低層階でも、面積が同じなら税評価はほぼ同じになるのです。
🔹 問題点:市場価格との乖離
- タワーマンションでは、同じ面積でも階が上がるほど市場価格が大幅に高くなります。
例:20階と50階で販売価格が2倍近く違うケースもあります。 - しかし税評価上は、ほとんど差がつかないため、
高層階の住戸が「過少評価」され、税負担が軽くなる現象が起きます。
これが「タワマン節税」と呼ばれるゆえんです。
🔹 行政・制度面での対応
【相続税対策の観点】
- タワーマンションを相続・贈与に利用すれば、
「市場価値の高い高層階住戸を低い評価額で引き継げる」ため、
節税策として利用されてきました。
【国税庁・総務省の対応】
- この不公平を是正するため、2024年(令和6年)から制度改正が行われました。
🆕 改正ポイント(2024年度以降)
- 階層・眺望・日照などによる価格差を評価に反映
- 具体的には、高層階ほど評価額を上げ、低層階は下げる補正を導入。
→ これにより、タワーマンション内での階層別評価のばらつきが一定程度是正されます。
🔹 不動産鑑定評価との関係
鑑定評価では、市場実勢(取引事例や収益性)を基に価値を求めます。
したがって、
- 実際の市場価格は階層や眺望の差を強く反映する。
- 一方、課税評価はあくまで行政評価であり、市場との乖離が生じやすい。
→ この乖離を「価格」と「評価額」の違いとして整理し、
鑑定士は説明・分析する役割を担います。
特に相続税や訴訟関連の評価業務では、
「課税上の評価額が実勢価格とどれだけ乖離しているか」を専門的に示すことが重要になります。
🔹 まとめ
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項目 |
内容 |
|
通称 |
タワーマンション節税 |
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本質 |
高層階住戸の税評価額が実勢価格より低くなる現象 |
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原因 |
建物・土地評価が床面積按分中心で階差を反映していない |
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対応 |
2024年度から階層補正を導入 |
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鑑定士の関与 |
市場価値と課税評価額の乖離を分析・説明 |
実際の評価モデル例(高層階 vs 低層階)
ここでは、タワーマンションにおける高層階と低層階の「市場価格」と「課税評価額」の乖離を具体的に比較できるよう、簡易モデルを示します。
🏢 前提条件(モデル設定)
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項目 |
内容 |
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物件 |
40階建タワーマンション(東京都心) |
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専有面積 |
各戸70㎡(全戸同一) |
|
土地持分 |
各戸1/200 |
|
建築年 |
築5年 |
|
用途地域 |
商業地域(容積率600%) |
|
税評価基準 |
改正前:階差なし、改正後:階層補正導入 |
💴 ① 市場価格(実勢)
階が上がるにつれて眺望・日照・ステータスなどで価格が上昇する想定です。
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階層 |
市場価格(㎡単価) |
住戸価格(70㎡) |
|
5階 |
120万円/㎡ |
約8,400万円 |
|
20階 |
150万円/㎡ |
約1億500万円 |
|
35階 |
180万円/㎡ |
約1億2,600万円 |
→ 高層階ほど+50%以上の価格差が生じています。
🧾 ② 改正前の課税評価(固定資産税・相続税)
従来は階層差を反映せず、
建物評価額は「建築費÷総延床面積」で均等配分していました。
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階層 |
固定資産税評価額(建物+土地) |
実勢価格比 |
|
5階 |
約5,000万円 |
約60% |
|
20階 |
約5,000万円 |
約48% |
|
35階 |
約5,000万円 |
約40% |
→ 実勢価格が高い上層階ほど「課税評価の割合」が低くなり、高層階ほど実質的に減税効果が大きいことが分かります。
(例:35階は実勢の約40%しか評価されない)
🆕 ③ 改正後(2024年度以降)の評価モデル
総務省の指針に基づき、階層・眺望などによる補正率を設定。
ここでは仮に以下のような補正率を用います。
|
階層 |
階層補正率(仮定) |
補正後課税評価額 |
実勢価格比 |
|
5階 |
-10% |
約4,500万円 |
約54% |
|
20階 |
±0% |
約5,000万円 |
約48% |
|
35階 |
+20% |
約6,000万円 |
約48% |
→ 高層階の税評価が上昇し、低層階はやや減額。
ただし、市場価格の上昇ほどは追いつかないため、依然として一定の乖離が残ります。
📊 ④ グラフで見る乖離イメージ(概念図)
市場価格(万円)
│ ● 35階 1億2,600万
│ ● 20階 1億500万
│ ● 5階 8,400万
│
│ ──────────────── 固定資産税評価額線(約5,000万前後)
│
└──────────────────────────▶ 階層
5F 20F 35F
→ 実勢価格の差に比べて、税評価額の傾きが緩やか。
この傾きの差が「タワマン節税」の実態を表しています。
🧮 ⑤ 相続税の節税効果(例)
|
階層 |
実勢価格 |
改正前評価額 |
評価割合 |
評価差額 |
|
35階 |
1億2,600万円 |
5,000万円 |
約40% |
約7,600万円 |
|
5階 |
8,400万円 |
5,000万円 |
約60% |
約3,400万円 |
→ 相続財産評価で見ると、同面積なのに約4,000万円の評価差が出ることも。
この差が「タワマン節税」として相続税対策に利用されていました。
📘 不動産鑑定評価上の視点
不動産鑑定士が評価を行う際は、
市場実勢(販売事例・階層別価格差)を反映して評価額を求めるため、
行政の税評価とは異なり、高層階の付加価値を的確に反映します。
特に以下の業務でこの分析が活用されます:
- 相続税評価と実勢価格の乖離を説明する意見書
- タワーマンションの賃料・売買価格評価
- 課税不服申立における鑑定意見提出
改正前後の税負担比較シミュレーション
ここでは、タワーマンションの高層階と低層階における「改正前後の税負担比較」を、わかりやすい数値モデルでシミュレーションします。
🏢 想定条件
|
項目 |
内容 |
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物件 |
40階建タワーマンション(東京都心) |
|
住戸面積 |
各戸 70㎡ |
|
実勢価格 |
下表参照 |
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固定資産税評価割合(改正前) |
一律 5,000万円(階層差なし) |
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階層補正(改正後) |
高層階+20%、中層階±0%、低層階−10% |
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固定資産税率 |
1.4%(標準税率) |
|
都市計画税率 |
0.3% |
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合計税率 |
1.7%(年間課税率) |
💴 1. 市場価格(実勢)
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階層 |
市場価格(㎡単価) |
住戸価格(70㎡) |
|
5階 |
120万円/㎡ |
8,400万円 |
|
20階 |
150万円/㎡ |
1億500万円 |
|
35階 |
180万円/㎡ |
1億2,600万円 |
🧾 2. 改正前後の課税評価額
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階層 |
改正前評価額 |
改正後評価額 |
補正率 |
評価額変動 |
|
5階 |
5,000万円 |
4,500万円 |
−10% |
−500万円 |
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20階 |
5,000万円 |
5,000万円 |
±0% |
±0万円 |
|
35階 |
5,000万円 |
6,000万円 |
+20% |
+1,000万円 |
💰 3. 年間固定資産税+都市計画税額の比較
(課税評価額 × 1.7%)
|
階層 |
改正前税額 |
改正後税額 |
増減額 |
増減率 |
|
5階 |
85,000円 |
76,500円 |
−8,500円 |
−10% |
|
20階 |
85,000円 |
85,000円 |
±0円 |
±0% |
|
35階 |
85,000円 |
102,000円 |
+17,000円 |
+20% |
→ 改正後は高層階の税負担が約2割増、低層階は約1割減になります。
⚖️ 4. 相続税評価額ベースで見た影響(目安)
|
階層 |
実勢価格 |
改正前評価額 |
改正後評価額 |
実勢比(前→後) |
|
5階 |
8,400万円 |
5,000万円 |
4,500万円 |
60% → 54% |
|
35階 |
1億2,600万円 |
5,000万円 |
6,000万円 |
40% → 48% |
→ 高層階の「実勢との乖離」が縮小し、節税効果が減少。
一方、低層階は評価が下がることで相続税額も減少。
📊 5. 税負担比較イメージ
年間税額(円)
│
│ 35階 ────● 改正後:約10.2万円
│ ● 改正前:約8.5万円
│
│ 20階 ────● 改正前後とも約8.5万円
│
│ 5階 ────● 改正後:約7.6万円
│ ● 改正前:約8.5万円
│
└────────────────▶ 階層
5F 20F 35F
→ 改正により、税負担が市場実勢の分布に近づくよう調整されているのがわかります。
🧮 6. シミュレーションまとめ
|
階層 |
改正前税負担 |
改正後税負担 |
差額 |
改正目的との整合性 |
|
5階 |
税過重気味 |
やや減少 |
−8,500円 |
適正化 |
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20階 |
中立 |
変化なし |
±0円 |
適正 |
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35階 |
税過少(減税状態) |
税増加 |
+17,000円 |
是正方向 |
💡 不動産鑑定評価との関係ポイント
- 鑑定評価では実勢価格(階層差含む)を重視するため、すでに「高層階=高価」という現実を反映済み。
- 改正後の税評価が鑑定評価に近づく方向ではあるものの、依然として市場との乖離は残る。
- 相続・贈与・課税不服などの案件では、鑑定評価により「課税額の妥当性」を検証できる。
鑑定評価書での説明例文
「タワーマンションにおける階層差と税評価額の乖離」について、鑑定評価書内で使用できる正式な説明文例を示します。
実際の鑑定評価書では、主に「価格形成要因の分析」や「価格乖離の説明」部分に記載されます。
🧾 鑑定評価書での説明例文
(※一般鑑定評価書・相続評価補助意見書等に使用可能)
【1】価格形成要因の分析(建物の個別的要因)
本物件は○○駅至近の超高層分譲マンション(いわゆるタワーマンション)であり、階層に応じて眺望・採光・通風等の居住快適性に明確な差異が認められる。
一般にタワーマンションにおいては、同一棟内であっても高層階住戸ほど市場における希少性が高く、販売価格・賃料単価ともに上昇する傾向にある。
したがって、階層差は本物件の価格形成において重要な要因の一つであり、高層階ほど価格上昇率が高いという市場実態を反映する必要がある。
【2】市場実勢と課税評価の乖離に関する補足説明
一方、課税上の固定資産税評価額や相続税評価額は、建物全体の再建築費を基礎として各専有部分の床面積に応じて按分されるため、階層差や眺望等の要因が十分に反映されていない。
その結果、同一面積の高層階住戸であっても、実勢価格に比して課税評価額の割合が相対的に低くなる傾向がある。
このような現象は一般に「タワーマンション節税」と称され、実勢価格と課税評価額との乖離を生じさせる要因となっている。
【3】改正後制度への言及(2024年度以降)
なお、総務省は令和6年度(2024年度)から、タワーマンションに係る固定資産税評価について階層補正を導入し、眺望・日照等による価値差を一定程度評価に反映させる運用を開始している。
本改正により高層階住戸の評価額は上昇し、低層階はやや減額される方向で是正が図られているが、依然として実勢価格との差は完全には解消されていない。
よって、本鑑定評価においては、実際の市場取引事例を基礎として階層差を反映した適正な価格を求めている。
【4】評価結論との関係(まとめ表現)
以上の事情を総合的に勘案すると、本物件の価格水準は、行政上の課税評価額よりも実勢価格に基づく水準が相当であると判断される。
特に高層階住戸については市場における評価が顕著に高いため、課税評価額との間に一定の乖離が生じることはやむを得ないものと考えられる。
本鑑定評価は、こうした階層差及び市場動向を適正に反映した価格を示すものである。
📘 使用例
この説明文は、以下のような箇所に適用可能です:
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鑑定評価書の区分 |
記載位置 |
用途 |
|
一般鑑定評価書 |
「価格形成要因の分析」/「個別的要因」欄 |
階層差を説明 |
|
相続税補助意見書 |
「課税評価額との比較考察」欄 |
税評価との乖離説明 |
|
不服申立用意見書 |
「鑑定意見の根拠」欄 |
実勢との不均衡を指摘 |